昔、芸術というのは、王侯貴族たちによって支えられていました。
パトロンがいなければ、芸術家たちは芸術を極めることさえできなかったのです。
音楽も絵画も、王侯貴族たちのために作られたといってもいいでしょう。
絵画においては、肖像画を書くことが画家たちに求められました。
肖像画を描くといっても、そのまま描いたのではパトロンである王侯貴族の機嫌を損な兼ねません。
肖像画を描くからには美しくなければならなかったのです。
ところが、ピカソのアヴィニョンの娘たちを見た方は、そこに描かれた娘たちを美しいと思うでしょうか。
キュビズムの原点と言われているアヴィニョンの娘たちは、普通ならとても美しいと言えない娘たちが描かれています。
しかも、アヴィニョンの娘たちは娼婦を描いているのですから、今までの王侯貴族のために絵画とは一線を画したものです。
ピカソは、このアヴィニョンの娘たちを描くことによって、芸術が王侯貴族から市民の手に渡ったことを高らかに宣言したのではないでしょうか。